「教育先進国リポートDVD オランダ入門編」発売

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2012年5月5日土曜日

親と何でも話せ、学校が好きで、生活に満足しているオランダの子どもたち

世界保健機構WHOのヨーロッパ支部が5年ごとに発表している、学童生徒の健康調査HBSCが発表された。調査ごとに参加国の数が増えるが、今年は、43か国。主としてヨーロッパの国々だが、アメリカ合衆国とカナダ、ロシアも含まれる。11歳、13歳、15歳の子どもたちを対象にした調査だ。

 かつて、ユニセフのイノチェンティ研究所が行った「ウェルビーング」の調査も、基礎データの一つとして、このWHOの調査結果が使われている。

 その中で、オランダの子どもたちのデータはどうだったか。目立った結果をまとめておこう。

 まず、圧倒的に目覚ましかったのは、Life Satisfaction(生活への満足度)だ。
11歳では第2位(女子94%、男子96%)だったものの、13歳(女子92%、男子97%)、と15歳(女子90%、男子96%)でともに調査対象国中トップだった。

 こうした生活への満足度は、当然、家庭や学校での生活状況が反映しているものだろう。

 現に、「母親と何でも話せる」子どもの比率は、11歳(女子92%、男子96%)で第4位、13歳(女子91%、男子91%)で第2位、15歳(女子90%、男子90%)で第1位。他国に比較すると、11歳までは、どの国もほぼ同じように母親と何でも話すが、年齢が上がるにつれて比率が下がっていくのに対して、オランダでは、それが高く維持されている。

 同じ傾向は父親との関係についてもいえる。「父親と何でも話せる」こどもの比率は、11歳(女子82%、男子90%)で第4位、13歳(女子74%、男子84)で第3位、15歳(女子71%、男子87%)で第1位だ。特に、男の子が思春期を通じて父親との良好な関係を維持しているのが興味深い。

 このような親との良好な関係は、友人と夜遊びをする立が、他国に比べてかなり低いことにも象徴されている。

 それでは、学校についてはどうだろうか。
学校が好き」と答えた子供の比率は、11歳で第9位、13歳で第4位、15歳で第15位と、全体としては、平均を上回るがそれほど目立った比率ではなく、かなり変動もある。しかし、「学校の課題をプレッシャーと感じるか」という質問に関しては、例年通り、プレッシャーを感じている子供の数が圧倒的に低く、顕著な結果を示していた。11歳では、39か国中38位(39位はスウェーデン)、13歳では、39か国中37位(38位、ギリシャ、39位スウェーデン)、15歳では、35位(さらに低いのは、フランス、ギリシャ、ハンガリー、スロヴェニア)だった。

クラスメートをKindでhelpfulだ」と答えている子供の数もかなり大きい。11歳で第4位(女子83%、男子78%)、13歳で第3位(女子83%、男子78%)、15歳で第4位(84%、77%)だ。夜遊びはしないが、学校の友人たちとの関係は良好なようだ。

 そのほかに、健康行動として目立っていたのは「朝食を毎日取っている」と答えた子供の数だ。11歳では女子93%、男子95%、13歳では、女子82%、男子87%、15歳では、女子75%、79%で、いずれも、調査国中トップというから驚く。

 また、インターネットや携帯電話の使用率が、調査国でも最低に近かったのが目立っていた。38jか国中、11歳では最下位、13歳で36位、15歳で33位だった。

 そのほか、気になるのは、たばこやアルコール、そして、オランダでは自由化されていることで有名な(ソフト)ドラッグの使用率だ。以外にも、どれもあまり高くない。5年前の前回の調査で、オランダ人の子どもたちのアルコール消費量が多いことが問題になっていた。オランダでは、ソフトアルコールの消費が、法律上16歳から認められているため、10代前半になると消費傾向が高かった。しかし、前回の調査後、全国的にキャンペーンが行われ、また、脳科学の専門家らが、アルコールの使用が脳の発達に悪影響を及ぼすという調査などが出たため、家庭でも、子どものアルコール使用を厳しく抑える傾向が増えていた模様だ。

 特に麻薬に関して言えば、とかく、麻薬取り締まりに躍起となるアメリカ合衆国、また、スイス、フランス、ベルギーなどの国の方が、オランダの子どもたちよりも使用率が高い。

 それでは、性教育が進んだオランダのセックス体験はどうか。これは、15歳の子どもたちだけが対象になっているが、女子で22%、男子で19%で、調査データが可能だった36か国中30位と、意外にも低かった。

 また、いじめについては、「過去1か月以内に2回以上いじめられたことがあるか」という質問に対して、「はい」と答えた子供の比率は、11歳で、38か国中26位、13歳で38か国中29位、15歳で、38か国中33位と、平均をかなり下回っていた。

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 以上が、オランダの子どもたちに関する目立った結果だ。他国についても、国ごとに詳細に検討してみれば、子どもたちのいろいろな姿が見えてきてなかなか面白い。

報告書は、英語で読めるし、ネットからだれでも無料でダウンロードできる。関心のある向きは、ぜひ見て見られるとよい。

http://www.euro.who.int/__data/assets/pdf_file/0003/163857/Social-determinants-of-health-and-well-being-among-young-people.pdf




2012年5月2日水曜日

G500:新しい形の若者たちの政治参加

2009年に、高校の授業必須時間の規則に抗議して、全国から2万人の高校生を集めてストライキを実施し、国会にまで行って、議員たちにスピーチをしたシウェルト・ヴァン・リンデン君。当時17歳だった彼の卓抜した行動力と弁舌の力に圧倒され、私は、わざわざ彼に会ってインタビューしたことすらある。(拙著「オランダの共生教育」でも取り上げた)

それから3年、21歳の大学生になったシウェルト君が、仲間たちとまたまた世間をにぎわす話題となるアクションを起こしている。G500という運動だ。

彼らの言い分を要約すると、「現在の政治は、戦後の団塊の世代の人々によって決められる政治で、若者たちの利害を反映していない。しかし、団塊の世代の老後を支えるのは、自分たち若者の世代だ。若者の政治議論をオランダの政治に反映させるために、18~35歳の若者を500人集め、彼らが皆一緒に、これまでオランダの政治を中心になって支えてきた3大政党の党大会に出席し、党内の議論の中に、若者の声を反映させる仕組みを作りたい」というようなことになるかと思う。

4月に発足したG500は、シウェルト君が、知識人や政治家なら絶対に見逃さない「バウテンホフ」という、日曜正午過ぎの政治討論番組に招かれて公表したことにより、わずか5日以内に500人の登録達成。35歳以上の市民からも、熱いメッセージが送られてきて、ついに、シニアの支持者団体G500+まで作られた。G500は500人の制限枠をやめて、さらに登録を受け付けている、という。

実にオランダらしい柔軟な若者たちの運動だ。

まず、若い世代の人々が、政治議論をするだけの情報を受け取っていること、それについて自分の立場できちんと議論できることだ。シウェルト君は、かつて、17歳で運動した時、LAKSという、全国の高校生組織の議長だった。LAKSは、80年代にできた組織だが、もともと、60年代の終わりにおこった大学生をはじめとする若者たちの民主化運動が母体にある。当時、高校終了時に受ける全国統一試験の試験問題の不備に対して苦情を受ける団体として始まった。この試験不備の苦情を受け付ける電話を、教育監督局が部屋もろとも提供したというのだから、驚く。その後LAKSは、ネイメーヘン大学の社会学の教授に依頼して、アンケート調査の仕方のアドバイスを受け、全国の高校生に「理想の学校」のあり方のアンケートをした。その結果は、深刻に受け止められ、教育監督局は、学校評価の一つとして、高校生自身による「評価」の試みも取り入れている。

こういうLAKSの動きは、現在では、政府も支持し、高校生の発言権、つまり、「教育を受ける側」の発言の権利を守るために、政府が予算をつけて、活動を保障している。おそらく、学生運動の時代を経て、こうした時代を経た指導者らが、80年代に制度整備を行った結果なのだろう。

LAKSは毎年、希望する生徒たちを集めて合宿研修を行い、そこで、法学者を招いて、教育を受けるものの発言権に関する、法規則の勉強会までやっている。LAKSの運営には、かつて高校生として運動していた先輩らが、NPO団体としてかかわっているともいう。もちろん、施設・運営費は国の予算からだ。

もちろん、若者たちの政治意識が高いのは、LAKSのような組織があるから、というばかりではない。オランダでは小学校から「時事」を取り入れているかが、国の監視基準に含まれている。だから、小学生でも、今話題の「時事」は一通り知っている。しかも、教室で、生徒たちが意見を交わす機会は、学校が意図的に用意する。「死刑制度」「同性愛の権利」「イスラム問題」「環境保存」などなど、われわれ市民を取り巻く時事を、子どもたちが、子どもたちなりに考える時間を尊重している。こうした時事問題への取り組みは、数年前に義務化された『シチズンシップ教育』によってさらに強化されている。『シチズンシップ教育』では、自分の意見を持つこと、他の人の異なる意見に耳を傾けること、文化や考え方の違う他者を尊重し、違いを乗り越えて、ともに意欲的に協力すること、コンフリクトの際には、暴力を使って強制したり、また逆に、譲歩して相手の言いなりになるのではなく、まず、自分の立場を明確にして、『議論』をすることによってウィンウィンの解決策を見いだす努力をすること、などが教えられる。

こうしてみていると、まことに、シウェルト君のような若者が出てくるのも当たり前のことだな、とうなずける。もちろん、彼個人の卓抜した才能があることも事実ではあるが、、、

ところで、G500の議論を見ていると、程度の差はあるにせよ、問題の本質は、オランダも日本も変わりないことが見えてくるのではないか。急速に進む高齢化社会の中で、縮小する若者世代の利害は共通だ。ただ、それを取り上げ、未来の世代として、責任を持った政治行動を起こしている、、、それができると彼らに思わせる、民主的で柔軟な社会環境があることが、日本とは大きく違うのではないか。日本の若者も、積極的に時事問題を考え、世界の動きを追い、G500のような動きにつながってほしい。

G500の運動は、すでに、ヨーロッパの諸外国でも注目され、サイトには、早くも英語版、フランス語版なども登場しているようだ。ヨーロッパに、G500の種がまかれるのかもしれない。広がるに値する状況はどこにでもある。まずは、サイトの英語版を見てほしい。

http://www.g500.nl/english/

時間のない方のために、下記、英語版の要約を翻訳したものを提示しておく。


G500 in Englishからの翻訳

G5002012年にオランダに設立されたばかりの若者の運動。G500の目的は、18歳から35歳までの若者を少なくとも500人集め、共同で3大政党、自由民主党、労働党、キリスト教民主連盟の党員登録をすることだ。これら3つの政党の党大会に出席することで、政党を若返らせ、私たちが緊急を要すると考える10の議題を提供していきたい。究極の目的は、政治の中核において幅広い連合を生み出すことにある。それは未来の政府にとっての基礎となり、それを通じて、オランダは来る未来に備えることができるだろう。
G500が発足してわずか5日以内に、500人の若者が登録。予想を超える関心の高さに応じるために、発起人たちはさらに多くの登録ができるようにした。35歳以上の市民からも多くの反響があり、G500+が作られた。彼らは、持続可能性の高い改革を推し進める意欲に満ちた若者たちの運動を支え、社会に広い支持があることを示していく。

なぜこういう方法なのか?
オランダでは、8つほどの政党から成る150の民主的に選挙された議員が政府をコントロールしている。法は多数決制に基づいて制定・施行される。しかし、政党の政策方針は、党大会において決議され、そこでは、その党の議事日程、つまり間接的には、国会の議事日程に従って比較的小さなグループの人々が決議を行っている。これらの党大会に出席している党員の年齢は比較的高く、若い政党の代表性は比較的低い。G500はこの均衡を修正し、世代間のコンタクトを促進し、我が国を、世代を超えて持続可能性の高い国にするために必要な改革を推進したいと考える。

なぜそれが必要なのか?
2次世界大戦後、ベビーブーマー(団塊の世代)が生まれた。オランダでもそうだ。彼らは、親の世代が戦災から国を立て直す間に成長した。速い速度での経済復興のおかげで、政府は、確固とした社会福祉ネットを実施することができた。また、誰もが健全なヘルスケアを享受するため、また、老後の(国家)年金を受け取るための保険料を支払うこともできるはずだった。しかしながら、個々人がヘルスケアを必要としたり、年金年齢に至るまでこれらの年金掛け金が貯蓄されるよりも、今日支払われている掛け金は、ヘルスケアがすでに必要だった他の人々、あるいは、明日の年金を支払うために使われているという状況だ。このシステムは、明日以降の未来には通用しない。
しかし今、この団塊の世代が退職し始め、寿命は延びている。何十年にもわたって保険料を支払ってきた、よいヘルスケアや年金をを当然受け取るべき大きな世代が、今、彼らよりもずっと規模の小さい若者世代の支払う掛け金で支援されなければならない状況となっている。これが問題なのだ。高齢者世代が急速に大きくなり、保険料を支払う働いている世代が縮小していることが! オランダ政府はこのことを何十年にもわたって知っていたにもかかわらず、その付けを先送りしてきた。

幅広い改革のための10原則
G500
は、イデオロギーを超えた幅広い改革のために10の原則を採択した。
1.    オランダは、例えば、ポーランドやエストニアなどの国々に比べて、教育に対して割くGDPあたりの予算比率が小さい。私たちは、子どもや学生に対して、質の高い教育を与えること、また、研究と技術革新に投資することでのみ、競争力のある、経済的に強力な国を維持することができる。教育及び研究・技術革新に対して投資すべきGDPあたりの予算をさらに2.5%増加させるべきである。
2.    ヘルスケアコストの大半は、しばしば高齢期、人生の最終段階の5年間に費やされる。私たちは、ヘルスケアのコストを支払うことのできる人々は自分でそれを支払うべきであると考える。そうすることによって、それを支払えない人々が、よいヘルスケアを享受できる。
3.    年金システムは新しい現実、すなわち、人々が職業を頻繁に変える状況に適応される必要がある。私たちは、人が、自分自身の年金基金を選択できる可能性を持つべきであると信じる。そうすることによって、人々は、年金資金として取られるカネの投資リスクに基づいて自分でどの年金を選択するか決定することができる。
4.    以前に比べてより多くの人々が、自営業を営むようになっている。それは、部分的には、起業精神の成長によるものだが、部分的には、経済危機のためでもある。私たちは、自営業者たちが、企業に雇用されて働いている人たちと同様の社会保障を変えることができるようにすべきであると考える。
5.    雇用規則は大半が、ある労働者が同じ企業に何十年もとどまるという時代に作られたものだ。これらの規則は更新の要がある。被雇用者に対して、短期契約を与えたり、数回の更新を繰り返すよりも、3年あるいは5年の契約を交わすことを、雇用者側にも被雇用者側にも認めるべきである。
6.    住宅市場は凍結状態にある。若い新規参入者は、低所得者向けの住宅が不足し、自由市場での賃貸価格が高騰する中、高い住宅価格と厳しい金融規則のために、ほとんど住宅を購入できない。住宅市場は、若い労働者にとって、仕事場に近い場所に、支払い可能な住宅を見つけることができるような改革を必要としている。
7.    外国産の石油への我々の依存度は高い。政治不安の高い地域から、不足土の高い石油に依存することを避けるためにも、我々は、2030年までに、少なくとも50%を、持続可能性の高いエネルギー源に依存するよう目的を定める必要がある。
8.   1960年代以来、オランダは、天然ガス資源からの重要な収入を享受してきた。この収入の大半を、政府は、ヘルスケア、社会保障、および国債利子の支払いのために使っている。我々は、この歳入の一部を、ノルウェーのように、国家『レイニーデー(低迷期救済)基金』として貯蓄することを求める。
9.  国家が責任のある国債を負うことには何の問題もない。それが借用されたのち10年以内に1ユーロたりとも不足なく返金するという約束を果たしてくれるのなら、私たちは低利子(コスト)を低く保つことができ、公債が世代を超えて継承されることを防ぐことができる
10. 我々の憲法は、政府は、富が、人々の間で公平に分配されることに責任を持つものであると明記している。私たちは、この責任は、単に、現今の世代に対してだけ通用するものではなく、来る世代に対しても負わされたものであると付け加えることが重要だと考える。こうすることによって、われわれは、政府が、請求書を未来の世代に先送りすることを避けることとなる。